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事業承継とは|後継者不在を含めた5つの問題点と事業承継を成功させるスキーム

事業承継とは

事業承継(じぎょうしょうけい)とは、会社の経営する事業を現経営者の引退に伴い後継者に引き継ぐことで、個人事業主の場合は有形の事業用財産やノウハウと言った無形の財産、株式会社などであれば株式の全部又はその大部分を譲渡することを言います。

中小企業は、社長の経営手腕が会社の強みや存立基盤になっているケースが多く、その社長が後継者を誰に指名し、どうやって事業を引き継いでいくのかという問題は非常に重要なテーマとなります。

事業承継の円滑化は、日本全体の7割を超えるといわれる中小企業の雇用確保と、会社の「暖簾(のれん)」を守ること、優れた技術や技能の伝承をしていく事で、国家や社会の資産損失を防ぐ重要な取り組みという観点もあります。

この際、自社株式を誰に引き継ぐのかという問題や、後継者の育成、株式譲渡の際の相続税(贈与税)の問題などが高確率で起きるため、事前の事業承継計画がかなり重要なものになってきます。

事業承継は経営者にとって最後の大仕事とも言えるもので、会社の事業を後世に伝えるために必ず必要手順と言えます。ただ、どの企業にとっても必ず訪れる問題ではありますので、早い段階から十分な準備を行っていくことが、事業承継を円滑に進めるためのコツと言えます。

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[2-left bg_color="#f7f7f7" title="事業承継のメリット" style="1"]

事業承継は、先人の精神面の引き継ぎも含まれるので、先人の作った会社の創設理念、または社会対する想いを代々引き継いでいけることがメリットです。設立当初に掲げた理念を存続させていけることができますね。

こうしたことから意思決定が迅速になり、一貫した経営を行っていくことができると考えられます。

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[2-right bg_color="#f7f7f7" title="事業承継のデメリット" style="1"]

事業承継のデメリットとしては、素質のある承継者を見つけるのが困難であるということです。承継者は長い時間をかけて育てていく必要がありますし、先人の想いを引き継ぐことのできる経営者は、一朝一夕でできるものではありません。会社の経営を任せる後継者をしっかりと慎重に選んでいくために、早い時期から着手することが必要です。

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中小企業と言われる規模の会社は、企業数でいうと全体の99.7%といわれ、法人・個人事業主を含めると380万というデータがあります。

参考:経済産業省|2017年版中小企業白書 概要

さらに、雇用面では約7割を占めており、そのほとんどが独自の優れた技術を持って企業活動しています。

こういった技術の発展と環境を整備し、後世に承継していくことは、日本経済が継続的に発展を続けていく為に必要不可欠なことであり、事業承継の大きな目的となっています。

事業承継をしない事によるリスク回避には早期からの対応が必須

このように、円滑な事業承継を行う為には、後継者の選定や育成にはできるだけ早期から計画的に取り組むことと、親族への事業承継への備え、多額の資金調達が必要となる自社株式や事業用資産の買い取り、相続税などの対策のための事前準備をすることなどが重要となります。

今回は、事業承継を行う際に知っておくと承継がスムーズになる方法をご紹介していこうと思います。

 

目次

事業承継における5つの問題点

上記のような相続争いもあれば、相続争いが発生せず後継者一人が円満に承継した場合であっても、多額の相続税が課されるケースはあります。また、現経営者が金融機関と締結している個人保証などは、事業承継の際に後継者への大きな負担になることも多く、承継後の納税や資金繰りについても充分に配慮して事業承継を進めていくのが非常に重要になってきます。

経営者平均年齢の上昇

国全体の平均年齢が高齢化している中、経営者の平均年齢も60歳に差し掛かっているにもかかわらず、経営者の多くは後継者を見つけ、育てるという行為に苦労しているというのが現状です。

近年は後継者が見つからないことで、事業が黒字でも廃業を選択する企業は多いと見られている。経済産業省が2017年10月に公表した試算では、今後10年間で70歳を超える全国の中小企業経営者は約245万人と推計。同省は、2025年頃までに約650万人の雇用と約22兆円分のGDP(国内総生産)が失われる可能性を指摘している。こうした中小企業の休廃業が相次げば地域経済の衰退や雇用喪失を招きかねないとして、国や県、地域金融機関などが中心となって事業承継への支援を強化するなど、日本企業の後継者問題は官民ともに喫緊の課題として捉えられている。

引用元:帝国データバンク

後継者の不在

帝国データバンクが調査した後継者の決定状況に関する調査結果では、「日本企業の後継者不在率は全体の約66.4%。年代別に見ると、「60代」以上では後継者不在率が調査開始以降最低となった一方、「30 代」と「40 代」では最高。

また、「内部昇格」や「外部招聘」により就任した社長の後継者不在率は、60 代以下では全国平均を下回って推移したが、60 代以降では逆転し全国平均を上回って推移しています。

参考:帝国データバンク|全国後継者不在企業動向調査

中小企業の多くが同族会社という実態

日本では、中小企業のほとんどが同族会社であるとされており、創業者一族と無関係に決まるケースは多くはありません。

同様の調査結果によれば、子息・子女に事業を承継している企業は20年前の約半分(全体の約4割)であり、親族に承継する企業は全体の約6割となっています。

このような状況の中で、中小企業の経営者の引退予想年齢の平均が約67歳という調査結果も踏まえてみると、多くの中小企業が、今後10年の間に何かしらの対応を迫られることになるはずです。

その理由としてはここでも

  1. 後継者となるべき候補者が多くない
  2. 社長が個人財産を事業のために提供している など

一族の財産が企業経営の中に組み込まれていることで、必然的に後継者を親族から選択しなくてはならない場合が多いこと等が挙げられます。

積極的に会社存続に取組むきっかけや動機か欠けている

事業承継は大きな問題ですが、多くの中小企業で、事業承継に向けた計画的準備がなされていないという事実もあります。例えば、事業承継に係る事前の取組に関する調査結果においても

  1. 「特別な事はしなかった」
  2. 「事業承継の重要性を認識していなかった」
  3. 「事業承継の重要性はわかっていても、具体的な対策は取っていない」

などの理由が挙げられており、沈みゆく船に早々に見切りをつけていることが考えられます。

従業員からは言い出しにくく助言が遅れがち

今の経営者が自発的に取り組むのが難しい以上に、周囲から事業承継計画を促すのができないといった事がより問題を難しくしてしまっています。同族会社の場合、事業承継は「社長の死」を連想させるよう話題でもあります。

家族内で取り上げて議論するという事は極力避けられる話題でしょうし、新たなトラブルが生じる可能性もあります。

 

事業承継で後継者に引き継ぐべきもの

事業承継は現在の経営者からその後継者へ、企業が培ってきた様々な財産を引き継ぐことでバトンを繋ぎ事業を存続させていく行為ですが、その際の事業承継には、「ヒト(人)」の承継と「資産」の承継の2つに大別されます。

ヒト(人)の承継

ヒトの承継とは、現経営者個人の個性や知識といった無形財産を次代の経営者(後継者)に託すということです。これら無形財産の例としては以下のものがありますが、特に中小企業では現経営者=会社の顔というケースが多いので、無形財産を伝えることが事業存続の上で重要なポイントになってきます。

  1. 会社の事業を継続するために必要な知識・経験などのノウハウ
  2. 人脈
  3. リーダーシップ、経営に対する信条・価値観

「ヒト(人)」の事業承継は、単純に後継者を決定することだけに留まらず、現経営者の資質、能力、マインドなどを次代経営者へ承継するという側面も持っています。

資産の承継

資産の承継とは、事業の有形財産を次代経営者に承継することをいいます。その目的は次代経営者の経営権や支配権の確立なので、自社株や不動産などが事業用資産として承継対象に含まれることになります。

多くの中小企業では、現社長・オーナーの個人的な資産が少なからず事業に投入されているケースがあり、例えば経営者が大半の自社株式を所有していたり、土地などの個人資産を事業用に活用している場合は、いざ事業承継をしようとした際にこれらの財産の所有権と経営権の分離が難しくなっています。

このような事例ではさらに、親族間での遺産相続や財産分与などの問題が同時に起こってきます。分かりやすい例で言えば、親族の一人を後継者とした場合、他の相続人の相続分や遺留分によって事業に活用されていた財産まで分散してしまう可能性があり、後継者以外への資産分散を防ぐには多額の現金資産を用意し、相続財産の代わりとしておくなどの準備が必要になるのです。

 

事業承継を行う3つの方法

具体的に、事業承継を円滑に進めるためにはどのような方法をとれば良いのかという話になりますが、まずはどういった事業承継の方法があるのかを知っておきましょう。

親族に承継する場合

経営者の子息・子女などに会社の事業を継がせるというのが、中小企業において最も多い事業承継のパターンというのはすでにご紹介した通りです。しかし、親族承継が上手くいかないという事実が多いのも現状です。

少子高齢化などの社会的要因に加え、経済成長が見込めないといった理由から、親族が継ぎたがらないというケースも少なからず存在します。

事業承継は現経営者と後継者の意思疎通が最も大変で重要になりますので、両者がそれぞれ事業承継を成功させるため様々な努力をしなければならないとも言えます。

親族承継のメリット

  • 一般的に内外の関係者から受け入れられやすい
  • 後継者の早期決定ができる
  • 後継者教育のための準備期間が確保しやすい
  • 相続で財産や株式を後継者に移転できるため所有と経営の分離を回避できる

親族内承継のデメリット

  • 親族内に経営の資質と意欲を持つ後継者がいるとは限らない
  • 相続人が複数いる場合、後継者の決定や経営権集中が困難になる

親族承継は、将来的な経営の混乱を未然に回避できるという点では効果がある一方で、後継者以外(社外の人間)の相続人に対して公平な財産分配ができるように配慮するのが難しいということも考えられます。

特に遺産相続では分割方法がわかりにくく、揉め事に発展する可能性が高くなる為、トラブルを最小限に抑える為に、どのような方法をとればいいのかを弁護士などに相談しておく事を強くおすすめします。

従業員または外部の後継者に承継する場合

社内の親族以外の従業員や外部の後継者に事業を承継する場合、取引先や取引先金融機関から出向してもらった人に後継者となってもらうケースが考えられます。

従業員や外部への承継のメリット

  • 会社の内外から広く候補者を求めることができる
  • 長期間勤務している従業員の場合は経営の一体性を保ちやすい

従業員や外部への承継のデメリット

  • 後継候補者が経営への強い意志を示す場合もあるが適任者がいない恐れもある
  • 後継候補者に株式取得等の資金力が無い場合がある
  • 個人債務保証の引き継ぎ等の問題もある など

M&Aを行う場合

M&Aとは、企業の合併や買収のことを言い、従来の中小企業にとってM&Aは馴染みの薄いものと思われがちでしたが、近年では未上場企業でもM&Aの件数は増加傾向にあり、事業承継の方法の一つとしても広く浸透しつつあります。

M&Aのメリット

  • 後継者として適任な者がいない場合に、広く候補者を求めることができる
  • 現経営者が会社売却の利益を獲得できる

M&Aのデメリット

  • 希望の条件を満たす買い手を見つけるのが困難
  • 経営の一体性を保つのが困難

 

事業承継計画の立て方|知っておくと便利な事業承継の5つの手順

次に事業承継計画の立て方とその手順を簡単にご紹介していきます。ここでご紹介することが必ずしも正解な流れとは限りませんが、事業承継協議会の発表している「事業承継ガイドライン」を参考しております。

下記の内容を確認しながら、弁護士などの専門家に相談して具体的に進めていただければと思います。

後継者の選び方

「事業承継を行う3つの方法」でもご紹介しましたが、まずは「後継者」を誰にするのかを決定していきます。それぞれにメリットやデメリットがありましたが、会社にとって将来的にどの選択をすれば一番良いかを、ゆっくり決めていただければ思います。

現状の把握

事業承継計画を立案するに当たっては、まず最初に会社をとりまく各状況を正確に把握することが必要です。現状把握というと一見簡単なように見えますが、実際には、様々な視点から会社をとりまく各状況を正しく認識することが重要になります。

①会社の経営資源の状況 ②経営リスクの状況 ③経営者の所有資産及び負債の状況
従業員の数、年齢
資産の額及び内容
キャッシュ・フロー等の現状と将来見込み 等
会社の負債の状況
会社の競争力についての現状と将来見込み 等
保有自社株式
個人名義の土地・建物
個人の負債
個人保証等の状況 等
④後継者候補の状況 ⑤相続発生時に予想される問題点と解決方法の有無の状況  
親族内で後継者となり得るものがいるかどうか
社内や取引先等に後継者となり得るものがいるかどうか
後継者候補の能力や適性(統率力、意思疎通能力、広い視野、忍耐力、行動力、柔軟性等)
後継者候補の年齢、経歴、会社経営に対する意欲 等
法定相続人及び相互の人間関係・株式保有状況等の確認
相続財産の特定、相続税額の試算、納税方法の検討 等

こういった観点から現状把握を十分にしなければ、関係者との意思疎通や事業承継の方法の確定もうまくいきませんので、円滑な事業承継のための重要な第一歩であるといえます。

経営環境と課題解決の対応策

会社の永続的な発展のため、今後の経営環境の予測を行い取り組むべき課題への対応策を検討していきます。

事業の方向性を検討する

明らかになった課題への対応策を「中・長期」で経営ビジョンに落とし込みます。自社の事業領域を明確にし、組織、経営形態、設備投資などを、目標数値から中長期の経営計画に織り込んでいくことは、事業承継の時期や方法も明確になっていきます。

実際に事業承継計画を立てる

新体制に向けて課題整理、後継者の教育、経営体制の確立に向けた準備、相続税等の具体的な対策を検討していきます。事業承継計画を効果的に進めるためには、経営者と後継者が共に働く場をつけること、そして経営理念や会社の方向性を共有することが不可欠です。

事業承継における計画書の書き方

具体的な書き方やフォーマットが指定されているわけではありませんが、幾つかのサンプルをご紹介させていただきます。

  1. サンプル
  2. サンプル②

例:N社社長中小喜多郎の事業承継計画

事業承継の概要を決める

現経営者 中小 喜多郎(65歳)
後継者 中小 学(35歳):喜多郎の長男(現在、N社従業員)
承継方法 親族内承継
承継時期 7年目に社長交代

経営理念|事業の中長期目標

経営理念 とりあえず頑張る。
事業の方向性 三つ(雇用・設備・債務)の適正規模化を図る。
現在の主力商品のマーケットシェアを一層拡大する。
将来の数値目標
【現状】 【5年後】 【10年後】
売上高 5億円 10億円 15億円
経常利益 3千万円 3千5百万円 4千万円

事業承継を円滑に行うための対策・実施時期

(1)関係者の理解

  1. 家族会議で、学を後継者とすることを決定(実施済)
  2. 社内の役員・従業員に後継者とする旨を公表(実施日)
  3. 金融機関・取引先企業に後継者とする旨を告知(実施日)
  4. 取締役(1年目)、常務(3年目)、専務(5年目)、副社長(6年目)とし、段階的に権限委譲
  5. ●●を取締役に抜擢し、◆に引退してもらうことで役員の世代交代を図る
  6. 社長就任後、喜多郎は会長(7年目)、相談役(9年目)としてサポートを実施。10年目に完全引退

(2)後継者教育

  1. S社で他社勤務(実施済)
  2. 社内での配置:Y工場(1年目)、Z工場(3年目)、本社営業(5年目)
  3. 商工会議所・商工会への参加(2年目)

(3)株式・財産の分配

■1:基本方針

後継者以外の相続人の遺留分は、花子:4分の1、梅子:8分の1
株式価値の上昇を見込んで相続開始時の相続財産を4億円と仮定

  • 花子:自宅(1億円)
  • 梅子:預貯金5千万円分
  • 学:株式(2億円)及び預貯金5千万円分
■2:具体的な対策
  • 相続人に対する売渡請求に関する定款変更を行う(1年目)
  • 財産の分配方法を記載した公正証書遺言を作成する(1年目)
  • 学の株式(80%)のうち、60%分は生前贈与
  • 学が過半数の株式を保有する7年目に、重要事項の拒否権を有する「黄金株」を発行して喜多郎に割り当てる(7年目)
  • 「黄金株」は喜多郎が引退する10年目に会社が取得し消却
  • 自己株式の取得:Cの株式5%(2年目)、Aの株式5%(Aが引退する3年目)

(4)その他

弁護士Dと任意後見契約を締結(5年目)

基本的にはこう言った流れで計画書を書いていただくのが良いかと思います。

ただ、おそらく初めて事業承継に取り組む方は、そもそも何から初めて行けば良いかもはっきりとはしていないと思いますので、弁護士などの専門家に、今後の流れなどを確認しながら進めていただくのが良いかと思います。

 

事業承継を円滑・スムーズに成功させる11のポイント

後継者を決める問題にあたり、3つの方法を把握したところで、実際にどのような手順を踏めば事業承継が上手くいくのかを確認しておきましょう。

後継者に持たせる経営支配権の維持と確立をする

事業承継後の経営を安定させるには、「後継者に自社株式を集中させて経営権を確立すること」「後継者が事業用資産を自由に利用・処分できること」の2点が重要になります。

自社株式を集中させる理由

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自社株式の集中は、3分の2以上の議決権を保有することですので、買収のリスクに備えるためにも重要な施策になります。不動産などの事業用資産は、その大半が経営者自身による所有物となっているケースが多いため、経営権と所有権が一致している事が多くなっています。

そのため、遺産相続によって後継者以外の相続人に資産を分散させない対策が求められますし、事業承継による税金対策も課題となってきますので、事業承継後の継者が安定して経営できるよう、事業と経営支配権を維持し、節税をするという視点も欠かすことができません。[/chat]

優秀な後継者の発見と育成

事業承継の後継者は「親族への承継」「従業員等への承継」「外部の人間を招いての承継」の3パターンがありますが、それぞれの場合での理解と育成の観点からご紹介していきます。

親族内承継の場合

もし承継させたい相続人が複数存在する場合、誰を後継者とするかを明確に決定しないと、親族内での紛争につながる恐れがあります。能力・適性、会社経営に関する意欲を十分に考慮した上で、なるべく早く後継者を決定することが望ましいのは確かです。

■関係者への理解が必要

親族内後継では、経営が円滑に行われるための環境整備が最も重要になります。まずは、社内の役員・従業員や取引先、金融機関等の理解を得るために、これらの関係者に対して事業承継計画を公表するなどして、事前の説明を行うのが良いでしょう。

■後継者教育に関して

経営者は現場を取り仕切る能力や知識が必要とされますが、この能力・知識を誰しもが短期間で習得することは不可能ですので、後継者を選定した後には、十分な教育を行って来るべき承継に備えるべきでしょう。

[box04 title="社内での教育"]後継者に自社の各分野(営業・財務・労務など)を経験させることで、必要な知識を習得させることが有効だと思われます。また、ある程度の地位に就けて権限を委譲し、意思決定やリーダーシップを発揮する機会を与えることも重要です。

社内教育のメリットは、比較的自由な指導内容と経営上のノウハウ、業界事情、経営理念の引継ぎまで行なえることができる点といえますね。[/box04]

[box04 title="社外での教育"]社外教育では他社での勤務を経験させるのがよく行われている手法です。人脈の形成や経営手法の習得を期待されて行われることが多く、自社の枠にとらわれない、新しいアイデアを獲得するためには有効な手法と言えます。[/box04]

従業員等へ承継する場合

親族内承継の場合と比べ、関係者の理解を得るのに時間がかかるため、親族内承継の場合よりも後継者の経営環境の整備に留意する必要があります。

■後継者をどのように選定するか

「従業員等への承継」としては、役員や従業員などの社内から後継者を選定する場合と、取引先や金融機関などの外部から後継者を招く場合とに大別されますが、社内の後継者候補としては、

  1. 1:共同創業者
  2. 2:専務等番頭格の役員
  3. 3:優秀な若手経営陣
  4. 4:工場長等の従業員 など

上記の4パターンが挙げられるかと思います。ただ、外部の方を招いた場合、従業員等からの反発も予測されるため、その選定にはより慎重な判断が必要でしょう。

■後継者の教育に関して

親族内承継と基本的には同様に、必要に応じて社内のローテーションや経営幹部としての経営参画、他社勤務、セミナーの参加等を実施していくことが有効と考えられます。

国や商工会からサポートを受ける

国(中小企業基盤整備機構)による支援

中小企業基盤整備機構とは、後継者の排出問題に悩む中小企業のために、「事業引継ぎ相談窓口」を各都道府県に設置している団体です。後継者を求めている企業と人をマッチングさせ、専門家による具体的な支援が行われています。

商工会議所による支援

各都道府県・市町村に設置されている商工会議所が、後継者を探している企業と起業したい人とのマッチングや、事業譲渡を行いたい企業と譲り受けたい企業とのマッチングなどを行っています。

生前贈与や遺言による相続対策

生前贈与の場合

「生前贈与」を行うことで経営者の生存中に権利の移転が実現するため、非常に有効な方法の一つと考えられますが、自社株式や事業用資産の後継者への集中は、民法上他の相続人の権利によって制限を受けることになり、他の相続人の「遺留分」を侵害する事になります。

そのため、相続人間の争いを引き起こし、事業承継の面では大きなマイナスとなる可能性もありますので、遺産分割の方針を決定した上で計画的にすすめていくことが必要となります。

遺言の利用

一方、遺言は法定相続分に優先されるため、遺留分にさえ留意しておけば相続争いや遺産分割協議を避け、ある程度希望に沿った形で自社株式や事業用資産を後継者へ集中させることが可能です。

しかし、遺言内容は「場合によってはいつでも撤回可能」であることや、内容を変更する予定が不測の事態によって変更前に経営者が亡くなってしまったなど、生前贈与と比較して後継者の地位が不安定になってしまう可能性もあります。

任意後見制度の活用

現在の日本は、65歳以上の高齢者の4人に1人が認知症予備軍であると言われています。経営者の判断能力が低下して法律行為が出来なくなれば事業承継にも支障が出てきますので、そういった場合は「任意後見制度」等の利用を判断能力があるうちに検討しておくと良いでしょう。

会社や後継者による自社株の買い取りをする

事業承継の時点で、役員や従業員などに株式が分散している場合は、可能な限り株式の買い取りを実施して経営者に集約させるという方法があります。

これは後継者の経営支配権を確保すると同時に、後継者に反発する可能性のある人たちから株式を買い取っておくことで、将来的にこれらの人たちと会社との関係を希釈し、経営に何らかの障害が生じる可能性を未然に防ぐことが期待できます。

具体的な方法としては、後継者自身(または会社)が自社株式を買い取る方法と、新株を発行して後継者にのみ割り当てるという方法があります。

経営支配権を確実なものにするには、新株発行よりも後継者個人による買い取りの方が望ましいのですが、後継者個人が多額の買い取り資金を工面するのが困難な場合などは、会社が買い取っておくというのも有効です。

事業用資産・株式に遺留分を主張されない対策を立てる

後継者となった方は、先代の経営者が生きているうちに遺留分をもつ人全員との間で、事業承継の対象となる事業用財産・株式を「遺留分の計算」から除く合意を得ることができます。

ただし、経済産業大臣の「確認」と家庭裁判所の許可が必要ですが、この手続さえ済ませておけば、後継者が引き継いだ事業用財産・株式は遺族が遺留分を主張することはなくなります。

会社法の活用を積極的に行う

株式を集中させることによる経営支配権の確保も重要ですが、株式の分散を阻止する対策を講じておくことも重要です。後継者に株式を集中させる方法としては、生前贈与や「相続時精算課税制度」の活用、遺言書などに加えて、平成 18 年に施行された「会社法」を活用することも可能です。

  • 定款を変更して株式の譲渡制限規定を置き、これ以上株式を分散させない
  • 議決権制限株式を後継者でない株主に与え、後継者の経営権を安定させる
  • 株式の譲渡制限を設ける
  • 相続人に対する売り渡し請求を行う
  • 種類株式<議決権制限株式、拒否権付株式>の活用

拒否権付株式」とは、簡単に言えば「株主総会や取締役会の決議についてNoと言える権利」のついた株式です。

もっと詳しく言うのなら、拒否権付株式が発行されている場合、株主総会や取締役会の決議事項について、拒否権付種類株式の株主で構成される種類株主総会の決議が必要になることから、このような株式を後継者に承継することによってより確実な経営権を後継者に残すという目的で利用されます。

ただし、たった1株、たった1人の種類株主でも圧倒的な強さを持つ株式になるので、後継者以外に渡らぬよう遺言で後継者に相続させるなどの配慮が必要となります。

後継者の資金負担軽減と制度の活用

自社株式や事業用資産を後継者へ集中させるには多額の資金確保が重要ですが、様々な制度を知り活用することも同様に重要です。その一つに『経営承継円滑化法』がありますが、所定の手続きを経ることで、非上場株式に係る相続税・贈与税の納税が猶予されます。

また、生前贈与された自社株式を遺留分から除外する「除外特例」、生前贈与された自社株式の評価額を固定する「固定特例」など様々な制度がありますので、金利や期間を考慮した上で活用することを検討し、門家のアドバイスを受けながら事前に十分な検討をしていくことをおすすめします。

相続税などの納税対策をしっかり行っておく

事業承継を行う際、様々な節税措置がありあすので、これらを上手く利用し、後継者の納税負担が多くならない節税対策を練っておく必要もあります。

生前贈与と暦年贈与や相続時精算課税制度の選択

  • 暦年贈与:1年間で110万円までの基礎控除(110万円まで非課税)
  • 相続時精算課制度:60歳以上の親から20歳以上の子供又は孫へ贈与する場合、2,500万円に達するまで非課税になる

相続発生まで余裕がありそうなら暦年贈与を選択し、相続税実行税率より低い贈与税率の金額を計画的に贈与する方が効果的なので、専門家などのアドバイスをもらいながら、最適な時期を決めていかれるのが良いのではないでしょうか。

非上場株式等の相続税・贈与税の納税猶予制度

後継者が贈与を受けた場合、非上場株式に対応する贈与税の全額が猶予され、後継者が取得した非上場株式の課税価額の80%に対応する相続税の納税猶予を受けることが出来ます。

小規模宅地等課税の特例

特定事業用宅地等を、相続人である後継者が取得し事業を継続する場合は、相続税評価額の計算で、400㎡までの評価額が80%減額されます。

生命保険の活用

生命保険を活用し、相続税の軽減、納税資金の準備、そして円満な財産分割を行うことが出来ます。死亡保険によって保険金を受け取る場合、法定相続人1人当たり500万円の非課税枠が設けられています。

例えば、法定相続人が3人いれば、合計で1,500万円分が非課税枠として処理することができますので、相続することで相続税が発生してしまう場合であれば、生命保険を活用して相続税を回避することが可能なのです。

弁護士に相談して事業承継計画を作成する

まずは弁護士などの事業承継に詳しい専門家に相談してみましょう。客観的な第三者でありその道に詳しいプロと共に会社の現状を改めて見直すことで、事業承継のスムーズな計画が立てられます。

財務・税務のプロへ相談

現在の会社の収支や財産状態及び自社株の評価を行うのはもちろんですが、事業承継と並行して起こりうる相続を見据え、現経営者の相続財産評価や相続税試算をもとに、節税・納税対策を行ってくれるかと思います。

法務のプロの弁護士への相談

後継者が円滑に承継できるように定款や会社法務を改めて検討しましょう。そして、事業承継に向けて遺言による相続対策を行うことで、後継者と相続人間の争いを未然に防ぐことが可能です。

中小企業診断士への相談

経営に関するビジネスモデル、財務、人や組織、株式、法務の知識・視点を持ち、経営全体を通して見ながら、“後継者が企業を存続・発展できる”体制を整えます。

 

事業承継を相談におすすめの専門家と相談窓口9選

事業承継をサポートするための専門家という方々がいらっしゃいます。先ほどから名前のあがる弁護士や商工会などの他にもいくつか候補がありますので、簡単にご紹介させていただきます。

弁護士に相談できる事

弁護士は事業承継に関して、主に法律が関わること全般のサポートができます。事業承継に関して下記のような心配がある方は、弁護士に相談することをおすすめします。

  • 法的な紛争を回避するには?
  • 円滑な事業承継をするのにはどうしたらいいか?
  • 後継者に経営権を集中させたい
  • 他の相続人の遺留分にも配慮したい
  • 相続分を配慮した事業承継対策をするには?
  •  遺言を活用して相続紛争対策
  •  事業承継でトラブルが生じてしまったがどう対処したらいいか?
  • 定款の変更や議決権制限株式等で分からないことがある
  • 株式や相続人に対する売渡請求などの方法
  • 会社法上の各種制度を利用するにはどうしたらいいか?
  • 会社の法務面をしっかりさせたいがどうしたらいいか?
  •  M&A はどのようにするのがいいか?
  • 任意後見制度を利用するにはどうしたらいいか?
  • 遺言書の書き方を相談したい など

税理士に相談できる事

税理士は税務面がメインですが、企業経営に関する総合的なサポートも行っています。事業承継に関して、下記のような心配がある方は税理士に相談するとよいでしょう。

  • 相続税額を試算したいがどうしたらいいか?
  • 暦年課税制度や相続時精算課税制度を利用したい
  • 計画的な生前贈与を行いたいが、どうしたらいいか?
  • 議決権制限株式や黄金株を利用したい
  • 税務上どのような点に注意すればよいか?
  • 自己株式の取得(金庫株)を実行した場合の税務上の注意点は?
  • 相続財産を売却して相続税を納税する場合のメリットはなにか?
  • 相続財産を物納する場合のメリットやデメリットはなにか?
  • 相続税の申告期限が近づいている
  • 遺産が未分割の場合と遺産分割が完了した場合の相続税額は?
  • M&Aを検討しているがどのような点に注意すればよいか?
  • 事業承継時期も含めた長期の経営計画を策定したい など

税理士を探す場合は、相続税に詳しい税理士を紹介しているポータルサイトがありますので、そういったものを利用していただくか、お近くの税理士会、日本税理士会連合会にお問い合わせいただくのが良いでしょう。

公認会計士に相談できる事

公認会計士は、経営・管理・財務面でのサポートを行っています。

  • 既存株主からの株式買取りを行いたいが、適正な買取価格はいくらか?
  • M&Aによる売却価額はおおよそいくらになるか?
  • 磨きあげを行いたいが、どのような点改善を行えばよいか?
  • 円滑な事業承継を実現するためにはどのようなことを行えばよいか? 等

司法書士に相談できる事

司法書士は、裁判所提出書類作成と簡裁訴訟代理を業とするほか、企業法務等に関する情報提供・書面作成に関するアドバイスを行っています。

中小企業診断士に相談できる事

中小企業診断士は、その名のとおり中小企業が経営課題に対応するための診断や助言等を行います。コンサルティング業務のほか、後継者育成に関する助言、事業承継時期も踏まえた中長期の経営計画の策定支援等も行っています。

金融機関に相談できる事

金融機関は資金調達面で密接な関わりがあることから、中小企業に対して、資金面を始めとする総合的なサポートを行い様々な勉強会や助言等を行ってくれます。

一口に金融機関といっても、信託業務を扱う信託銀行、M&AやMBOに関する資金調達を支援する投資会社、増資の際に安定株主として株式を引き受ける中小企業投資育成株式会社など、特定の分野に強みを発揮するなど、幅広い選択肢があるのが特徴です。

商工会議所(商工会)に相談できる事

商工会議所・商工会等の中小企業関係団体は、中小・小規模企業の経営に関する総合的な相談・指導、各種セミナーの実施、中小企業関連施策に関する情報提供等を行っています。

  • 事業承継はどのようなことから手をつければよいか?
  • 事業承継に関する専門家を紹介してもらいたい
  • 後継者を外部から雇い入れたいが、どうしたらいいか?
  •  M&Aを検討したいが情報を入手できないか?
  •  後継者育成に関するセミナーに参加したいがどうしたらよいか?

中小企業基盤整備機構に相談できる事

総合支援センターに専門家を配置し、法務・税務・企業実務等各種といった相談の受付けを行っており、後継者教育も含めた各種研修プログラムを実施すること等により、中小企業を総合的にサポートする機関です。

中小企業庁に相談できる事

中小企業庁は、中小企業の発展のための様々な施策の企画・立案・実施、各種制度等の普及に向けた取組を行っています。事業承継に関連する税制や会社法について分かりやすく解説したパンフレットの作成・配布等も行っています。

 

事業承継の専門家に相談した際の費用

結論から言うと、相談だけなら無料で受け付けている場合が多くなっています。弁護士や司法書士の場合、相談料無料は当たり前の時代と言っていいでしょう。

中小企業診断士や公認会計士の場合は、相談料が1時間5000円前後かかってくるようです。

また、中小企業庁や中小企業基盤整備機構、商工会議所などは相談料は無料なものの、相談できる期間があったり、いつでも受け付けている訳ではないようですので、総合的に考えると下記のような順番でご利用いただくのが良いかと思います。

  1. まずは弁護士や司法書士の無料相談を利用し
  2. 事業承継に関する相談をしてみる
  3. より専門的な内容を聞きたい場合に別の専門家を紹介してもらう

こういった流れで相談していくと、費用は最小限に抑えることもできるでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

事業承継を行う基本的な流れをご紹介してきましたが、誰に事業を継いでもらうにしても、専門的な知識が必要になってきますし、曖昧なまま進めてしまうと、今後の経営が破綻する可能性も大きくなってきますので、弁護士などの専門家と相談しながら、着実に進めていただくことを強くおすすめします。

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