看護職損害賠償保険は、看護業務をするうえで起こってしまった事故の損害賠償責任を負担しなければならない時に、補償をする保険のことです。所属している団体で加入している場合もあります。
看護師たちが加入できる「看護師職賠償責任保険」がありますが、どのような保険なのかわからないという方も多いのではないでしょうか。
看護師は「看護師職賠償責任保険」の加入義務はありません。しかし勤務する病院により看護師損害賠償保険への加入が義務づけられているところもあります。
加入義務のない看護師職賠償責任保険ですが、最近では加入する人が多くなっています。それは医療事故を起こした場合、患者やその家族が看護師個人を訴えることが増えたためです。保険に加入していれば、損害賠償責任を保険会社が負ってくれます。
万が一のときに役立つ看護師職賠償責任保険の補償内容や基礎知識など詳しく解説します。
看護職損害賠償保険とは?
[chat face="pixta_26961721_S.jpg" name="" align="left" border="gray" bg="none" style=""]看護職損害賠償保険は、看護師が医療事故を起こして患者や家族からそのことについて訴えられた場合に、損害賠償責任を負担してくれる保険のことです。[/chat]
ほとんどの病院が医療法人保険に加入していますが、看護師が医療事故を起こした場合、患者や家族から多額の賠償金を請求されることがあり、医療法人保険では看護師個人の賠償事故がカバーされないこともあります。
看護師は通常医師の監視下に置かれる立場であり、病院内での医療事故に対して、患者や家族は医師に損害賠償を求めることが多いです。しかし看護師が医療事故を起こした場合は看護師1人に対して損害賠償を求めることも増えてきています。
看護職損害賠償保険は、個人で加入する保険なので必ず加入する必要はありませんが、看護師も一人の人間なのでミスを絶対にしないということは言い切れないため、自己防衛のためにも加入している人が増えています。
看護職損害賠償保険の主な補償内容4つ
加入する保険会社によって補償内容は異なりますが、まず基本的な補償内容を確認しておきましょう。
[box04 title="主な保障内容"]
- 対人賠償:相手を死亡、もしくは負傷させてしまった場合に適用できる補償
- 対物賠償:相手の所有物を壊してしまった場合に適用できる補償
- 人格権侵害:相手の人権を否定し名誉毀損してしまった場合に適用できる補償
[/box04]
表:日本看護協会の場合
補償内容 | 補償限度額 |
対人賠償 | 5,000万円(保険期間中は1億5,000万円まで) |
対物賠償 | 50万円 |
初期対応費用 | 250万円 |
うち見舞品購入費用 | 10万円 |
人格権侵害 | 50万円(保険期間中は100万円まで) |
このように、主な補償内容は「対人賠償」「対物賠償」「人格権侵害」となっています。
看護職賠償保険の必要性や加入条件
看護職賠償保険には加入できる条件があります。また保険金は必ず支払われるわけではなく、支払われないケースもあるので、看護職賠償保険の基礎知識を理解しておきましょう。
保険に加入する必要性
多くの人は何らかの看護職賠償保険に加入していて、未加入の場合も検討している人は多いです。それは最近看護職が、法的責任に問われる事例が増加しているためです。
法的責任に問われる事例が増加しているのは、看護師が行える医療行為が近年増えていること・人材不足が発生していることが原因です。昔に比べて看護師の責任が重くなっていて、いつ医療事故の当事者になるかわからないため、損害賠償請求を受けた場合に備える必要があります。
保険金が支払われないケース
保険金はすべてのケースに対して支払われるわけではありません。以下の場合のときは保険金は支払われないため、条件を理解しておきましょう。
- 保健師助産師看護師法の規定に違反して行った看護業務に起因する賠償責任
- 故意に起こした事故による賠償責任
- 業務の結果を保証することにより加重された賠償責任
- 被保険者と他人との間に損害賠償に関する特別の約定がある場合において、その約定によって加重された賠償責任
- 海外での看護行為
- 美容を唯一の目的とする医療行為等に関連する業務に起因する賠償責任
- 被保険者と同居する親族に対する賠償責任
- 被保険者の使用人が、被保険者の業務に従事中に被った身体の障害に起因する賠償責任
- 戦争(宣戦の有無を問いません)、変乱、暴動、そうじょう、労働争議に起因する賠償責任
- 地震、噴火、洪水、津波等の天災に起因する賠償責任
- 被保険者が業務を行う施設もしくは設備(業務遂行中に直接使用しているものを除きます)または自動車、航空機、昇降機、車両(原動力がもっぱら人力であるものを除きます)、船舶もしくは動物の所有、使用もしくは管理に起因する賠償責任
- 対物賠償の場合で他人の財物を紛失し場合
保険会社によって条件が異なるため、契約する前にしっかり確認しておきましょう。
出典元:日本看護協会
保険に加入するための条件
看護職賠償保険は看護師や准看護師、保険師、助産師の資格を持っている人のみ加入できます。そのため、看護助手は加入できません。
この保険にご加入できるのは、慶應義塾に勤務されている看護師、准看護師、保健師、助産師の方々に
限り、加入申込みをいただいたご本人が被保険者となります。
看護助手、助産所の開設者の方は対象外となります。
看護師や准看護師、保険師、助産師の資格が持っている人は医療行為ができ、看護助手は特別な資格がなくても、患者と接しながら働くことができますが、資格がないので医療行為に携わることはできません。
医療行為ができるかどうかで、加入の可否が決まります。
保険が適応される事故例
保険適応になるのは過失によるものです。故意に医療事故を起こした場合は賠償金は一切払われません。保険適応になる事故例は以下のものです。
【対人賠償】
医師の指示違う、誤った薬剤を投与してしまい、患者に障害が発生してしまった【対物賠償】
看護業務中にうっかり患者の眼鏡を踏みつけて壊してしまった【人格権侵害】
患者への説明中に不適切な用語を使用してしまい、患者から名誉を傷つけられたとして賠償金を請求されてしまった出典元:日本看護協会
看護職損害賠償保険を選ぶ4つのポイント
看護職損害賠償保険を選ぶ際は、下記の4つのポイントがあります。
- 掛け金の安さ
- 補償の充実性
- 補償対象の範囲が自分に合っているか
- サポート体制の手厚さ
上記の選ぶポイントを踏まえることで、自分に合った保険を選べるようになります。
掛け金の安さ
個人で加入する場合は、長く払い続けることを視野に入れると掛け金の安さが重要になります。
加入する保険会社によって掛け金は異りますが、だいたい1年間で5,000円台と費用負担が少ないのが特徴です。5,000円台の掛け金で、5,000万円程度の対人賠償が補償されます。
また、団体で加入すると、団体割引で20%割引されることもあるため、可能な場合は団体での加入も検討しましょう。しかし、掛け金の安さも重要ですが、価格と補償内容のバランスを考慮して加入することが大切です。
補償の充実性
主な補償内容に、対人賠償、対物事賠償・人格権侵害があります。さらに被害者への見舞金・初期対応費用としての補償があります。
また、補償は患者や家族に対してだけではなく、自分にも見舞金が出る場合があります。例えば、業務中に自分がインフルエンザなどに感染した場合、補償してもらえる感染見舞金もあります。
このように補償の金額だけでなく、補償内容の種類は保険会社ごとにさまざまなので、自分に合っているものを選びましょう。
補償対象の範囲が自分に合っているか
保険を選ぶとき、正社員やパートなどの雇用体系に関係なく、補償の対象になるかどうかや研修や講習、臨床実習、臨床研究の損害賠償に対応しているかを確認しましょう。
正社員やパートなどの雇用ではなく、ボランティアで行った業務も対象になったり、保健師、助産師、看護師、助産師が病院で行う業務だけでなく、災害派遣や業務上のスキルアップのために参加する研修・講習・臨床実習・臨床研究における損害賠償事故にも対応している場合もあります。
サポート体制の手厚さ
サポート体制の手厚さも看護師損害賠償保険を選ぶときのポイントです。いざというときに弁護士のアドバイスを受けることができるか、また訴訟にならなくても看護師の立場に立ち、調査を行って事実を明らかにしてくれるかなどサポート体制が充実しているかも重要です。
個人で弁護士に依頼をすると高額な金額が必要となります。保険でサポートしてくれるのなら、金銭的な心配もなく弁護士のアドバイスを受けることができます。
掛け金の安さを重視する人向けの看護師損害賠償保険4選
掛け金を安くしたい人向けの看護師損害賠償保険を4つ紹介します。それぞれの掛け金や限度額、補償内容を説明します。
ナース専科 看護師賠償責任保険
「ナース専科 看護師賠償責任保険」は、三井住友海上火災保険株式会社を引受保険とし、看護業務で起こり得るトラブルや事故などに備える看護師向けの賠償保険です。
ナース専科を運営する株式会社エス・エム・エスキャリアが保険会社と団体契約をするので、団体割引が適用され掛け金が年間2,500円という安さで保険に加入することができます。
ナース専科に加入している人は申し込みをwebからでき、掛け金の支払いもwebで行います。ナース専科に加入していない場合は、まずは会員になる必要があります。
補償概要 | 支払限度額 |
対人事故 | 5,000万円(保険期間中は1億5,000万円) |
対物事故 | 50万円 |
人格権侵害 | 50万円 |
初期対応費用 | 250万円 |
日本看護協会 看護職賠償責任保険制度
日本看護協会は、看護資格を持つ人が自主的に加入して運営する団体のことです。「日本看護協会 看護職賠償責任保険制度」は日本看護協会の会員だけが加入できる保険です。専用のコールセンターがあり、迅速に対応してくれて相談しやすいです。さらに医療安全に関わる出来事も相談することができます。
掛け金は安く、年間2,650円で別途年会費が必要ですが、サポートが万全なので利用者が多いです。
補償概要 | 支払限度額 |
対人事故 | 5,000万円(保険期間中は1億5,000万円) |
対物事故 | 50万円 |
人格権侵害 | 50万円 |
初期対応費用 | 250万円 |
Willnext 看護職向け賠償責任保険 Aプラン
Willnextは、一般社団法人日本看護学校協議会共済会に蓄積された過去の事故例や相談、会員から寄せられた意見や要望から作られた看護師の安心をサポートする看護師のための補償制度です。
Willnext 看護職向け賠償責任保険は、一般社団法人日本看護学校協議会共済会の会員のみ対象です。プランは2種類あり、補償金額によって選べます。掛け金が安いプランは年間2,980円です。
補償概要 | 支払限度額 |
対人事故 | 5,000万円(保険期間中は1億5,000万円) |
対物事故 | 50万円 |
人格権侵害 | 5,000万円 |
初期対応費用 | 500万円 |
株式会社イースウェル 働く女性の会
「株式会社イースウェル 働く女性の会」は、看護師、准看護師、保険師、助産師が契約できる、東京海上日動火災保険株式会社を引受保険とする保険です。「働く女性の会」に加入している人が保険の加入対象です。
株式会社イースウェル 働く女性の会の掛け金は年間3,340円ですが、保険金額に比べて補償額が充実しています。インターネットで申し込みを依頼することが可能なので、手軽に保険に加入することができます。
補償概要 | 支払限度額 |
対人事故 | 1億円(保険期間中は3億円) |
対物事故 | 100万円 |
人格権侵害 | 1億円 |
初期対応費用 | 500万円 |
補償金を重視する人向けの看護師損害賠償保険3選
掛け金は少し高いですが、補償金が多い・補償内容が充実しているを重視する人向けの保険を3つ紹介します。
株式会社メディカル保険サービス
株式会社メディカル保険サービスは掛け金が高く、年間5,640円です。しかし対物事故の補償額が最も高い保険で、訪問介護で患者宅で看護する人は患者宅の器物に触れる機会が多いのでおすすめです。
補償概要 | 支払限度額 |
対人事故 | 1億円(保険期間中は3億円) |
対物事故 | 1億円 |
人格権侵害 | 1億円(保険期間中は3億円) |
初期対応費用 | 500万円 |
株式会社エージェント
株式会社エージェントは手続きまでのスピードが早いので、すぐに加入したい人におすすめの保険です。ネットで資料、申込書を請求し、記入して返送するだけで加入手続きが完了します。掛け金は年間5,000円で高いですが、補償金は高いです。
補償概要 | 支払限度額 |
対人事故 | 1億円(保険期間中は3億円) |
対物事故 | 100万円 |
人格権侵害 | 1億円 |
初期対応費用 | 500万円 |
Willnext 看護職向け賠償責任保険 Bプラン
「Willnext 看護職向け賠償責任保険 Bプラン」は掛け金が年間3,440円で、その中に一般社団法人日本看護学校協議会共済会の年会費100円と共済制度運営費810円が含まれています。Aプランより保険料が高い分対人、対物事故の補償金が倍になっています。
補償概要 | 支払限度額 |
対人事故 | 1億円(保険期間中は3億円) |
対物事故 | 100万円 |
人格権侵害 | 1億円 |
初期対応費用 | 250万円 |
看護師損害賠償保険の申込方法
看護師損害賠償保険の申し込み方法は、保険会社によって違います。申込書を郵送で取り寄せ、申込みを行う方法やインターネットから直接申込みを行う看護師損害賠償保険もあります。日本看護協会が運営する看護職賠償責任保険制度の申込方法について紹介しましょう。
- 日本看護協会会員である( 日本看護協会会員の入会手続き)
- 保険制度専用の郵便振替用紙の請求
- 必要事項を記入して掛け金を振り込む
- 受領証が加入の証になる
日本看護協会の看護職賠償責任保険制度は、日本看護協会会員のみ加入できます。日本看護協会の看護職賠償責任保険制度に加入したい場合は、まずは会員加入の手続きを行なう必要があります。
他の看護師損害賠償保険も会員のみ加入できるところがあるため、あらかじめ調べておきましょう。
医療事故が発生した際の保険申請の流れ
医療事故が起きた場合、パニックになってしまい何をすればいいのかわからなくなります。慌てないようにあらかじめ保険申請の流れを知っておきましょう。
対人賠償事故が発生した場合
対人賠償事故が発生した場合の流れは以下の通りです。
医療事故が発生したら、まずは上司に相談して保険会社に早めに連絡をし、事故報告書を提出します。この際に、看護記録やカルテなどを提出することもあります。
事故審査委員会による審査が行われ、看護職に責任がある場合は、責任の割合や賠償額が検討されます。看護職に責任がない場合は、施設の責任として対応します。
対物事故が発生した場合
対物事故が発生した場合の流れは以下の通りです。
- 対物事故の発生
- 保険会社への報告
- 保険会社内で検討・調査
- 対応の協議
- 保険会社が患者への対応
- 必要書類等を保険会社へ提出
- 保険金の支払い
患者が賠償を希望したら、病院と相談のうえで対応することを説明します。この際、壊したものの写真を撮っておきましょう。
病院に報告後に対応を協議し、看護職に過失があり保険で対応すると判断したら、保険会社に報告します。保険会社で責任の割合や損害額を検討した結果の連絡がくるので、病院に報告して患者への対応を協議する患者に賠償の説明をして、必要な書類を提出してもらいます。
保険会社に写真や修理見積書などの書類を提出し、保険金が支払われます。
リスクに備えて看護師損害賠償保険に加入しよう
看護師は人の命を預かる大事な仕事です。医療は発展し、看護師が扱う医療行為も増えてきました。看護師も人間なのでミスをしないように心がけててもミスをしてしまうことがあります。
そのミスで医療事故を起こして、患者やその家族から訴えられた場合に、多額の賠償金を求められる場合があります。そんなときに看護師損害賠償保険はその損害賠償責任を負担してくれます。
看護師損害賠償保険は保険会社によってちがいますが、掛け金が安いとこもあります。掛け金がもったいないからといって保険に加入しないのではなく、万が一に備えて保険に加入しておきましょう。